《秋にオススメの絵本》ナシを食べるのが怖くなる…『木の実のけんか』文:岩城範枝/絵:片山健(福音館書店)

木の実のけんか 《season》季節のオススメ
画像出典:福音館書店

とても素敵な桜の下で起きてしまうケンカのお話。

この絵本は、狂言「菓争(このみあらそい)」から生まれました。

文章は縦書きで文字はたぶん明朝体で描かれており”狂言ぽさ”と言いますか、日本ぽさを感じ取ることができます。

絵も美しい水彩画で、絵の具を点で置き、色を重ねたりぼかしていくことで描かれる自然の姿がなんだか懐かしい。

一方で登場人物の服の色は、なんとなく今時っぽい華やかさがあり、素敵です。

お話は、タチバナ一族代表のタチバナさんが隣山まで散歩に行き、早咲きの美しい桜を発見するところから始まります。

その後タチバナさんは、すぐさま一族に連絡し、お花見を始めてしまうんです。

でもそれが良くなかった!

なぜならば、そこは隣山だから。

自分の山でよそ者が勝手にお花見を始めてしまったことに、クリさん大変ご立腹です。

腹の探り合いが終わり、言葉で争い、結局は集団同士の暴力沙汰に発展してしまう”木の実争い”ですが、圧倒的な力によって解決します。

「そうだった、この人達は木の実なんだった」と納得し、最後のページの美しさにゾッとすらしてしまう。

そんな素敵な絵本のもとになった狂言”菓争”とはどのようなものなのでしょうか。

そもそも「狂言ってどんなのだっけ?」という疑問もあわせてみていきたいと思います。

狂言と絵本ではここが違う

まず”狂言”とは文化デジタルライブラリーには、以下のように書かれています。

対話を中心としたせりふ劇です。大がかりな舞台装置は一切用いず、言葉やしぐさによってすべてを表現します。狂言の大きな特徴は「笑い」。中世の庶民の日常や説話などを題材に、人間の習性や本質をするどく切り取って、大らかな「笑い」や「おかしみ」にしてしまいます

つまりざっくり言うと、おもしろ日常会話、分類は喜劇ということですかね(笑)

ちなみに能はお面をつけて演じるのに対し、狂言はお面をつけない”直面(ひためん)”で演じるんだそう。

ただし『木の実のけんか』のもとになった”菓争”の場合には各々頭に木の実がついた面などをつけて演じるようです。

菓争は12人の登場人物で演じられることがほとんどで、絵本と比較するとタチバナ一族の”ブンタン”とクリ一族の”モモ”が狂言では出てきません。

そして、狂言では和歌の知識で争うのですが、絵本の場合はもう少し子どもにも分かりやすいようにアレンジされています。

この菓争は演者やお囃子などで参加される方も含めると、総勢20名ほどになってしまう大人数での演目のため、上演されるのが大変珍しいものだそう。

絵本を読むと実際の狂言も見てみたくなりますので、ちょっと残念です。

顔に注目

この絵本を読むときはとにかく登場人物たちの顔に注目してほしいです。

タチバナ一族がお花見しているシーンなどでそれぞれの顔を見ながら読むと「なんかスネ夫タイプぽいな…」や「意外とこの人は気弱そうだ」といったように、顔からその人の性格を想像しながら読めて楽しいです。

ちなみに、顔と服のセンスから判断すると、いちばん女性にモテるのはブシュカンさんかなと思います(笑)

そんな想像力をはたらかせることができる表情豊かな顔の中でも、いちばん注目してもらいたいのは、クリ一族の怒った顔。

クリさんが一度タチバナ一族に袋叩きにあった後、武装した仲間を連れて再決戦のためにダッシュで戻ってくるのですが、とにもかくにも怖い。

わざわざ注目しようとしていなくてもつい目が止まってしまうインパクトがあるお顔をされています。

絶対にナシさんとナツメさんは容赦とか知らない本気のヤバイ人です。

しかも、クリの一族は槍と薙刀、鎌や斧まで持っているんですよ。

対するタチバナ一族は、棒や杖で待ち構えるという…

こんなの勝敗は決まっているよ…「可哀想!」と思いました。

しかし、意外にもいい勝負になってしまう。

戦闘が長引き、どんどん激しくなってきて「一体どう収束するんだ」と思ったのもつかの間、一瞬でカタがつきました。

改めて自然の偉大さを感じ取ることができるとても静かな最後のページは、絵本を見ている自分も黙っていなくてはいけないという圧迫感のようなものすら感じます。

その前の戦闘ページまではほんとうに個性の出た戦い方、逃げ方でとても面白かったのに、この展開はほんとうにスゴイです。

この急展開こそが、力の差を表現しているように感じられます。

狂言だとどのように演じられるのか、ほんとうに見てみたくなりますね〜。

桜が出てくるので春に読んでも楽しい絵本かもしれないですが、出てくる木の実たちが秋から冬に旬を迎えるものが多い気がして、個人的には秋に読むと楽しいかなと思います。

食欲の秋、幻術の秋のどちらもこの絵本で感じてください。