小説も読みたくなる『きいろいゾウ』絵と文:にしかなこ(小学館)

きいろいゾウ 《blue》悲しくなりたいとき
画像出典:小学館

この絵本は、直木賞作家として知られる西加奈子さんの同名小説から産まれたものです。

おつきさまと暮らす”一匹のきいろいゾウ”と毎晩おつきさまにお願いごとをする”ひとりのおんなのこ”の神秘的な一夜のお話。

ゾウは”一晩だけ”女の子と遊ぶために地上に降り立ち、女の子を背中に乗せて世界中のいろいろな場所へ連れて行きます。

後半のゾウと女の子の会話が、じんわりと悲しい気持ちになります。

言葉がとにかく素敵で、楽しい描写もあるのですが全体的に「すこうしだけさみしい」感じが漂っているのです。

最終的には途中感じていたさみしさも消化してくれ、前向きな涙を流せる終わり方をしてくれます。

ほんとうに西加奈子さんは天才だと思います!

そんな西さんの魅力とはいったい何なのか、考察してみましょう。

言葉あそびの天才”西加奈子”

西さんといえば、小説『サラバ』で直木賞を受賞したことで有名な小説家です。

また、著書『きいろいゾウ』は宮崎あおいさんと向井理さん主演で『円卓』は芦田愛菜さん主演で、それぞれ映画化もされており、人気の高さがうかがえます。

わたしは個人的に西さんの作品がとても好きで、読みあさっています。

読んでいていつも思うのが、西さんの言葉が素敵だなということ。

例えば、小説『きいろいゾウ』では”アレチさん”というお隣さんがでてきます。

アレチさんの特徴は、必ずズボンのチャックがあいていることです。

その様子を西さんが言葉にすると、こうなります。

“いっつもいっつも開いてる。ぼっかりと、開いてる”

”ぼっかり”ってしっくりきますよね。

全くわざとらしさもなく、嫌な感じもしないけれど、それはそれは大きくチャックが開いている姿を想像できます。

こういうピッタリ!という言葉が出てくるところが、西さんの魅力ではないでしょうか。

そんな言葉あそびの天才が作った絵本ですから、オススメせざるをえません。

絵本が先か、小説が先か

絵本『きいろいゾウ』の文章は、すこし違うところもありますが、小説『きいろいゾウ』のなかに登場している文章をそのまま使っています。

そのため”ただ楽しいだけ”や”ただ不思議なだけ”という文章よりも、何か含みをもたせたような文章が多いです。

女の子とゾウのセリフから彼女たちの日常を想像したりすると、より悲しみを感じることができるかもしれません。

そして、絵も素晴らしい。

もし絵だけを見ていてもこの絵本の虜になってしまうでしょう。

そんな不思議で力強い絵が、西さんによって描かれています。

特に夜空の絵はついページをめくる手が止まってしまうほど神秘的で、惹きつけられる絵です。

つまり、この絵本には西さんの”言葉” ”色彩” ”小説”がつまっていて、とても贅沢な一冊なんです。

この絵本の帯には以下のように記載がありました。

“小説『きいろいゾウ』から産まれた絵本なのですが、描いていくうち、私はいつしか、この物語から小説は産まれたのだと、思うようになりました”

この西さんのコメントによって、絵本の存在自体がなんとも神秘的なものに感じられます。

小説も読むことになるかもしれませんが、この「すこうしだけさみしい」絵本を読んでみてはいかがでしょうか。