数あるシンデレラ物語の中から”毛皮で正体をかくす姫”がヒロインの絵本。
ディズニーでおなじみの『シンデレラ』とは違い、ちょっとゾッとするお話です。
有名な『シンデレラ』では行動力があり、たくましい女性像やいつか報われる日が来るというハッピーエンドが描かれています。
このご存知シンデレラの行動力もなかなかのものだと思うのですが『毛皮ひめ』の姫は、もう半端ないです(笑)
冒頭のメッセージには、この頃に作られた物語では”理不尽な結婚”が題材になることが多かったことに触れられています。
自由な恋愛が少ない時代に、自ら幸せな結婚を勝ち取った女性、毛皮ひめ。
さて、彼女のサクセスストーリーはいったいどのようなものだったのでしょうか。
あらすじ
お父さんである王様がとんでもない私欲に走り、なんとかその結婚から逃れようとするところからお話はスタート。
この姫は、小さい頃からいろいろな教育を受けており、とても賢いのが特徴です。
勉強だけでなく、料理やダンスなどの教養まで身に着けた素晴らしいレディ。
そんな姫を殿方が放っておくはずもなく、父親を買収してでも手に入れようというとんでもない男が登場…お父さんも話に乗ってしまうという悲劇!
王である父親に向かって「どうかおきもちを変えてください」と伝えられる姫はほんとうに素晴らしいです。
まぁ結局、聞き入れてはもらえないのですが…
そのため姫は逃げ出すために色々と準備をし、なんとか家を出ることに成功します。
そこまでは「あ~よかったね」なお話なのですが、その後が恐ろしい。
姫の行動によりトントン拍子で進む展開に「姫はいったいどこまで先読みしてらっしゃったのですか?」と考えるともう駄目です。
ちょっと人間不信になってしまうかもしれないシンデレラストーリー、こんなお話があるなんて全く知りませんでした。
このシンデレラ物語はどれくらいの種類存在するのか『毛皮ひめ』から受けた衝撃よりも大きな衝撃を与えてくれる作品はあるのでしょうか。
みていきましょう。
各地のシンデレラ
シンデレラの起源は、中国の『葉限』やエジプトが舞台の『ロードピス』などなど諸説あります。
お話のバリエーション自体も700ほどあると言われており、世界各地で語り継がれてきた人気の高いお話だということが分かるでしょう。
いわゆるシンデレラ
ディズニーのシンデレラの基になったお話は、2つあると言われています。
ひとつはフランスの文芸家シャルル・ペローの書いた『サンドリヨン』です。
この方が描いたお話から”かぼちゃの馬車”や”ガラスのくつ”が登場するようになったと言われています。
もうひとつは皆さんご存知、グリム兄弟の集めた民話集”グリム童話”の『灰かぶり』で、グリムならではという感じの残忍な終わり方。
そのお話の流れはおおまかに分けて4つです。
- 主人公の娘が継母や義理の姉妹にイジメられる
- 妖精といった神秘的な存在に助けられる
- くつを落とす
- イジメていた継母たちにはバチがあたる
このようなシンデレラ物語では、いつか報われる日が来るという希望などに加え、悪いことをしたらバチが当たる教訓も感じられます。
シンデレラの定義とは
しかし実は、700あると言われるシンデレラ物語の中に上記の4つが必ず盛り込まれているわけではないようです。
実際に『毛皮ひめ』には継母も出てこなければ、くつを落としたりもしません。
灰にまみれながら、働いているところと身分を隠して行った舞踏会でその美しさから王様に見初められるところが同じです。
こうなると、何をもってして”シンデレラ物語”というのか判断がたいへん難しい。
何者かにイジメられ、灰にまみれながら仕事をしていた美しい娘が、王に見初められるハッピーエンドを迎えれば良いのでしょうか?
研究者ではないのでわかりませんが、やっぱり誰でも不幸なままでは終わらないという希望を持たせてくれるお話をシンデレラの定義としていただきたいです(笑)
覚悟
この絵本を読むと、姫の恐ろしさをいちばんに感じます。
しかし、ツッコミどころも多いです。
例えば、姫が家出するときにドレスをしまう入れ物…ありえません!
絶対に入らないです。
ものすごく強力な圧縮袋を使ったとしても、あのこんまりさんですらお手上げでしょう。
入れ物以外にも、序盤で姫がかぶっている頭巾がちょっとカッパに見えたり、毛皮を脱がずにまんまるフォルムのまま働くのは、動きにくくないのかなどなど。
このようにただ怖いだけではないのですが、やっぱりひめの先読みの力は恐ろしくてゾッとします。
でもそれは、どうやって自分を幸せにするのかを考え続けている結果なのだと思います。
読んで「ちゃんと幸せになる覚悟を決め、幸せになる努力をしてる人のほうが幸せになれる!」とそんなことに気づいた絵本でした(笑)
しかしながら、絵本を読む前と後では、表紙の姫から感じる心の声が違いますね。
みなさんもぜひ読んで確かめてみてください。