世界傑作絵本シリーズ・アメリカの絵本の一冊です。
お母さんから「薪をとってきて」と言われた4人の子どもたちは、馬のブラッケンと森へ出かけます。
そして、そこで出くわしてしまうのです”トロールのばけものどり”と。
想像を超える大きさで、しかも悪い顔をしているばけものどりを見て「そんなの逃げるしかできないよ!」と心の中で叫んだわたし。
でもわたしなんかと違ってこの子どもたち、ものすごく勇敢です。
そんな「あ~よかった」というシーンがあり、安堵するのもつかの間「そりゃそうだ!」という更なる恐怖が続きます。
外国の絵本ならではの絵と翻訳の文章は、ときどき笑わせてくれます。
しかし、それでもこわいが勝るという恐ろしさ!
こんなにゾっとする内容なのに、とても綺麗な絵が描かれています。
いったいどのように描かれているのか、みていきましょう。
ばけものどりすら美しい。石版画でつくる絵本
作者のおふたりはご夫婦です。
最初からおふたりで絵本を作られていたわけではなく、もともとはそれぞれ、壁画と子どもの肖像画を描いていました。
そして、児童書の専門家に勧められ、絵本の共作を開始したとのこと。
おふたりは『アブラハム・リンカーン』という絵本では、1940年にアメリカでその年に出版された最も優れた子ども向け絵本に授与される賞である”コルデコット賞”を受賞しています。
このおふたりの絵本の特徴は”石版画”です。
ものすごく簡単に説明すると石版画とは、石を削るのではなく、直接平らな石に油分を含んだクレヨンなどで絵を描き、描画部分以外は絶えず水で濡らすことでインクと水が反発する性質を利用して印刷しています。
ただ手書きするだけでも大変ですが、水で濡らさなくてはいけないことなどを考えると石版画はもっと手間がかかる手法です。
しかし、手書きとは異なる、どことなく優しい雰囲気がただよう絵はほんとうに素敵。
石版画で有名なのはミュシャの作品ですが、このふたりの作品もとても素敵な色使いで目を奪われてしまうでしょう。
ちなみにこの絵本は、奥さんイングリさんの故郷ノルウェーにある民話をもとにして描かれています。
民話はよく教訓を学んだりできますが…何かを学ぶ余裕あるのでしょうか…お話怖すぎますし、当時のノルウェーにはいったい何が生息していたのでしょうか…恐怖です。
子どもが一番こわいかも
ほんとうに恐ろしい話です。
これ、実際に起こったら何日か外出できないですよ。
でも大丈夫です、文章や絵でちゃんと笑えるポイントがあるので、明日も出かけられます。
文章だと、おかあさんが初めてばけものどりを見たときの様子を”なんて ばかでかい とりでしょう”と表現されていたりします。
確かに”ばかでかい”であっているのですが、その訳でいいんですね(笑)
絵は、4兄妹の家中のものが風に吹き上げられる場面がオススメ!
特に表情と髪の毛に注目して読んでもらいたいです。
お話は恐ろしいんですけどね。
”ばけものどり”だけでもおそろしいのに”トロールの”がついちゃうんですよ。
それでも一件落着で終わるのですが、冷静になってみると結局人間ってこわい。
なによりも、子どもが一番こわいんじゃないかな…と思いました。
皆さんは何が一番こわいでしょうか。
ぜひ、ゾッとしたいときに『トロールのばけものどり』を読んでみてください。